機能性食品としてのコラーゲン

コラーゲン加水分解物が世に出てきたのと同じ時期に、機能性食品としてのコラーゲンが注目され始めます。健康ドリンクの走りとして登場したのが最初です。ある化粧品会社がコラーゲンをドリンクにして販売したところ、女性向けの雑誌が飛びつきました。その後、お菓子会社が量産するようになり国内でのコラーゲンに関する認知度が高くなったといえます。テレビの情報番組や健康をキーワードにした番組が取り上げたのが大きいですね。

学術団体の有者は、コラーゲンを摂取する事に疑問を呈する事が多く、コラーゲンの摂取効果に関する研究を発表すると、かなり否定的なお言葉を頂戴したことを、今も思い出します。当時は、骨と皮膚の効果に関する研究を中心に行ってきました。その間、コラーゲンを食するとコラーゲン特有のペプチド(アミノ酸が複数個つながったもの)が血液中で確認できたという報告がありました。

当時の生化学の教科書では、「たんぱく質は、アミノ酸まで分解されて吸収される。」という事が書いてあります。これが覆されたという事です。

コラーゲンを食べるとコラーゲンにしかないアミノ酸の塊を吸収できます。この塊が体中に行き渡り、いろいろな働きをすることが明らかになっています。

最近では、あまり問題視されなくなったので、本書のようなことが記述できるようになりました。いろいろな分野で利用されるコラーゲンやコラーゲン加水分解物の摂取効果について話を進めて行きたいと思います。

 

【阿膠(あきょう)】

<阿膠(あきょう)とは?>

コラーゲンの機能性食品としての認知度は高くなっています。まず、漢方薬の素材である阿膠(アキョウ)について話をすすめます。

阿膠は、Asini Corii Collasという学名を持っています。日本薬局方外生薬規格(局外生規)で掲載されている生薬として、古くから利用されてきました。ウマ科動物のロバ(Equus asinus L.)の毛を除いた皮を加熱抽出し、濃縮乾燥した膠(にかわ)の塊です。

阿膠の薬用としての歴史は古く、紀元前500年の『五十二病方』『神農本草経』で上品と格付けされており、650年の『千金翼方』に「無毒、主に心腹内崩や極度の過労を治療する」と記載されています。曹操の三男曹植は、阿膠を「仙薬」と称し、「永世難老(末永く老けずにいられる)」と『七歩詩』に詠んでいます。また、楊貴妃が飲んでいたという記述もあります(全唐詩・宮詞補遺 巻五、肖行操)。

阿膠の効能として、補血(造血)、益気、婦人病改善、強筋骨、滋養強壮、免疫力増強がいわれており、温経湯や黄連阿膠湯などの漢方薬に処方されています。

……今回の話は、漢字が多いので読みにくいですね。要は、「漢方薬として昔から利用されてきました」という事を紹介したいだけです。

 

<なぜロバ?>

漢方薬としてコラーゲンが使われているのですが、『なぜ、ロバ?』ということが疑問でした。色も茶色で、独特の獣臭があります。

中国において、ロバは身近な動物ですね。特に輸送手段としても重要で、荷物の運搬、ヒトの輸送などにも用いていました。おとなしいので飼育が容易であり、粗食に耐え、肉としても利用できます。しかし皮を鞣し、革として利用するには薄くて小さいです。阿膠に加工する手間がかかるのが問題になりますが、身近な動物の活用という意味もあったのかもしれません。

 

<阿膠=コラーゲンは婦人向けの効能が認識されていた>

阿膠の使用用途は婦人用の処方が多いという点も面白いですね。

「温経湯(ウンケイトウ)」は、月経異常や不妊、温疹などの皮膚症状の改善に効果を示します。「黄連阿膠湯(オウレンアキョウトウ)」は、のぼせ気味でイライラして眠れない症状の改善、皮膚のかゆみの改善に効果を発揮します。

昔から、コラーゲンによる皮膚の改善効果を認識されていたのも興味深いですね。

 

【コラーゲンの代謝】

コラーゲンを構成するアミノ酸は、グリシン・プロリンが豊富です。これらは非必須アミノ酸であり、コラーゲンには必須アミノ酸が少ないという特徴があります。その為、栄養成分としてのたんぱく質の評価基準であるタンパク質価は、ゼロとされています。たんぱく質の全てをコラーゲンとすると体重減少を引き起こすことになります。

コラーゲンを構成するアミノ酸のなかで、最も多く含まれているのがグリシンです。グリシンは、1番構造が簡単なアミノ酸です。血中でグリシンの濃度を測定しても、それほど量が多くないことも分かっており、直ぐに代謝していることも判明しています。

 

<コラーゲンを増やすには?>

コラーゲンは、「体を作っているたんぱく質」という認識です。なにもコラーゲンを食べなくても、たんぱく質を食べていればコラーゲンは作られると考えられています。しかし、そうとばかりは言えなくなってきた感もあります。

「たんぱく質を食べればコラーゲンが作られるのではなく、コラーゲンを食べると体中のコラーゲンの量が増えるのでは?」というのが、現在の研究による見解です。その原因が、血液中で見つかったコラーゲン特有のペプチドの作用にあります。

多くのヒトはコラーゲン加水分解物を食べると、約30分後に血液中でコラーゲン特有のペプチドが検出できます。その後、皮膚でも確認できるようになります。意外に早く、体中を駆け巡っているのには驚きました。他のたんぱく質ですと、検出できるほどの量のペプチドが無いため、コラーゲンはヒトと相性が良いのでしょうね。

 

<コラーゲンの働き>

主に血液中で検出できるペプチドは、アミノ酸が2個結合したペプチドですが、分子量が比較的大きいペプチドも検出できることも報告されています。

つまり、「たんぱく質を食べるとアミノ酸で吸収される」という教科書の言葉が「たんぱく質を食べると、アミノ酸と、一部低分子のペプチドとして吸収される」という風に書き直されると思います。

ある程度の大きなペプチドが吸収されるから、食品アレルギーのアレルゲンにもなるという事ですね。

しかし、コラーゲン由来ペプチドであるプロリル-ヒドロキシプロリン(Pro-Hyp)が、線維芽細胞の細胞遊走(皮膚組織を培養すると、組織から細胞がこぼれ落ちてきます)を早めたり、軟骨細胞に作用し関節軟骨を保護したりするという報告があります。また、滑膜細胞のヒアルロン酸の合成を高めることで変形性関節症を改善する可能性があるという報告も存在します。

コラーゲン摂取後に血中へと移行するペプチドPro-Hypが、細胞、器官、そして組織に有益な機能を付与する可能性が考えられています。

 

【コラーゲン摂取による皮膚への効果】

コラーゲンは、美肌効果を期待する機能性食品としての認知度が高く、健常女性の皮膚の角質層水分量が増加する事、シワの改善、肌の粘弾性の改善、皮膚の水分量の改善およびシワの減少、角層水分量や水分蒸散量の改善効果について報告されています。

 

【褥瘡、スキン-テア】

 褥瘡は寝たきりといった状態によって体が体重で圧迫され、血流の悪化から皮膚の一部が赤みを帯び、ただれたり、傷が出来る事です。一般的には床ずれとも言われています。

褥瘡対策として体の向きを変える事が推奨されています。コラーゲン摂取効果に関して、褥瘡患者での試験があり、有効性が確かめられています。

試験の内容とは、複数の介護施設においてコラーゲン加水分解物を10g/日で摂取してもらう、というものです。試験の結果、褥瘡治癒評価スケールのスコアの改善、皮膚の水分量や弾性が改善する事が報告されています(Lee, Adv Skin Wound Care 2006; 19(2):92. Yamanaka, J Nutr Intermed Metab 2017, 8:51)。

スキン-テア(皮膚裂傷)とは、「摩擦・ずれによって、皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷(部分層損傷)」と定義されています。加齢に伴い皮膚が脆弱になることで生じます。褥瘡や医療関連機器圧迫創傷、失禁関連皮膚障害などの持続する圧迫やずれで生じた創傷や失禁によっておこる創傷とは異なるものです。

有症率は、長期療養型施設で2.23〜92%、65歳未満が0.15%であるのに対し、65歳以上74歳未満で0.55%、75歳以上で1.65%と報告されています(Sanada, Geriatr Gerontol Int 2015, 15(8):1058)。

加齢に伴うスキン-テアの有症率の増加は、皮膚の乾燥と柔軟性の喪失によるものとされています。皮膚中のコラーゲンやヒアルロン酸の減少、エラスチンやコラーゲンの架橋に伴う粘弾性の低下が顕著になってくるから、と考えられています。

リハビリテーション病院の高齢患者39名を対象にコラーゲン加水分解物を1日に10g摂取してもらった結果、食べていない方に比べて皮膚角層水分量と弾性が高くなっていることが報告されています(Nomoto, Adv Skin Wound Care 2020; 33(4):186)。

これらの研究から、栄養学的観点からコラーゲン加水分解物が、褥瘡やスキン-テア予防のための栄養管理のための機能性食品として推奨されています。

褥瘡やスキン-テアに関する報告を確認して、コラーゲン摂取の重要性を改めて認識しました。自分たちが研究してきたのは、モデル動物や皮膚細胞を使った研究だったので、なんとなく自信が無かったのですが、他の研究者がヒトで証明してくれたのです。

 

<なぜ、コラーゲンを食べると皮膚の角質水分量が高くなり、粘弾性が高くなるのか?>

コラーゲンを食べないと生成されないペプチド(アミノ酸が複数個結合している)が腸から吸収され、血流にのって皮膚の細胞に到達します。これが引き金となって、皮膚の保水性や粘弾性に関係するコラーゲンやヒアルロン酸の合成を促していると考えられます。

また、合成が進むと分解も刺激を受けるため、溜まっていた老廃物の廃棄も進むと考えられます。コラーゲンを食べることは、加齢老化の改善になるという事ですね。

~コラーゲンを食べさせる研究をしてきて良かったと思いました~